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『無宿(やどなし) (1974年 勝プロダクション作品)

製作/勝新太郎、西岡弘善、真田正典
監督/斎藤耕一
脚本/中島丈博、蘇武道男
撮影/坂本典隆
美術/太田誠一
音楽/青山八郎
出演/高倉健、勝新太郎、梶芽衣子、藤間紫、安藤昇、殿山泰司、中谷一郎
カラー シネマスコープサイズ 97分
 時代は昭和初期。幼なじみのふたりの少年が大人になり刑務所で再会した。ひとりは山師(勝)になっており、もうひとりは潜水夫をやめて渡世人(高倉)になっていた。
 ふたりはひょんなことから女郎(梶)の足抜けに力を貸すことになり、やがて3人は、日露戦争で沈没したロシアの戦艦と共に日本海に眠るという財宝を探す冒険を始める。
 ここまで書けばもうお分かりだろう。これは、ロベール・アンリコ監督の冒険映画『冒険者たち』を下敷きにした和製『冒険者たち』の“ひとつ”である。
“ひとつ”と書いたのは、実は日本では和製『冒険者たち』がたくさん作られており、この柴又名画座でも、その中の1本である『冒険者カミカゼ』を過去に上映している。
 この映画は、今回初めて見たんだけど「冒険」という枠にこだわって中途半端なアクション映画にせずに、哀愁あふれる男の友情物語に仕立て上げたところが実にいい。
 資料によれば、勝新太郎が、前年度キネマ旬報ベストワンに輝いた斎藤耕一監督の『津軽じょんがら節』を見て感動し、勝プロに斎藤耕一を招いて作った作品であるとのこと。『津軽〜』の斎藤演出を見てアクション映画を依頼しようとは思わないだろうから、こうした詩情あふれる作品にしようということは、勝の最初からの目論見だったのである。
 これは私見だが、勝新太郎はフランスの名優ジャン・ギャバンを多分に意識した演技を見せることがあり、この映画では、高倉健をアラン・ドロンに見立てて、『地下室のメロディ』(1963年)や『暗黒街のふたり』(1973年)のギャバンとドロンをやりたかったことも見て取れる。2大スターの共演もこの映画の中では非常にうまくバランスしていたようだ。この数年前に公開された『座頭市と用心棒』では、勝新は三船敏郎と共演しているが、この時には、この2大ヒーローが互いに主張し過ぎ、はたまた譲り合い過ぎてしまったために、結局は中途半端な印象に終わってしまったのとは大きく違っている。これはストーリーの中で、勝新と高倉に、それぞれ別の目的を持たせて、ふたりの直接対決を巧みに避けたシナリオの功績だろう。
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 冒険が始まる前に、ふたりの男とひとりの女の関係をじっくりと見せていくあたりのフランス映画風演出もいい。そこにロベール・アンリコもそこのけの、斎藤耕一一流の思い入れたっぷりのロングショットが相まって、もうこの映像を見ているだけでもジ〜ンときてしまう。前にもどっかで書いたけど、日本人はなぜかフランス映画のムードが大好きなんですよね〜。
 欲を言えば、梶芽衣子もいいキャスティングだっただけに、もう少し彼女の見せ場も用意して欲しかった気がする。
 それにしても、ぼくはつい最近まで70年代前半は日本映画が不作だった時期と認識していたんだけれど、こうして傑作をひとつ見つけるごとに、それが大きな間違いだったことを再認識させられてきた。たしかに70年代前半は興業成績的には大きく低迷し、映画界は洋高邦低の時期ではあったが、そんな中でもこの映画のようにまるで宝石みたいに輝く映画があるのだから。そしてそれはぼくが知らないだけでまだまだ眠っているに違いない。柴又名画座でも積極的に70年代前半の日本映画を見なければ。

(2002/06/19)


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