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『冒険者カミカゼ』 (1981年 東映京都)

監督/鷹森立一
脚本/内藤誠、桂千穂、中島貞夫
撮影/北坂清
音楽/すずきまさかず
出演/千葉真一、秋吉久美子、真田広之、岡田英次、あべ静江
カラー ビスタビジョンサイズ 115分
 1967年のフランス映画『冒険者たち』(監督/ロベール・アンリコ、主演/アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカス)は、日本の青春映画に多大な影響を与えた。
 一攫千金を夢見た年齢も育ちも違う3人の男女が、タッグを組んで命がけの冒険に挑戦する。実に魅力的な設定で、この設定を拝借しただけでも、それなりの水準の作品になってしまうから不思議だ。
 というわけで、以後、日本でも本家『冒険者たち』にインスパイアされた和製「冒険者たち」が数多く作られている。例えばこの映画の2年前には、『黄金のパートナー』(1979年東宝 監督/西村潔、主演/藤竜也、三浦友和、紺野美沙子)という、これもぼくの大好きな和製「冒険者たち」映画があった。
 そしてこの『冒険者カミカゼ』も、今回初めて見たのだが、低予算映画でテレビ的な安っぽいカメラワークが気になるものの、期待通りの傑作であった。
 大学の職を追われた元オリンピック体操選手(千葉)、不正入学が発覚し退学させられた医大生(真田)、社長令嬢と自称するフーテン少女(秋吉)の3人が、大学の入学金7億円の強奪を計画し、見事成功する。ところが、それをヤクザのボスが嗅ぎつけ、横取りに動き出した。ヤクザとの戦いの中で3人の間に芽生える友情、恋、そしてそれぞれが背負う過去も明らかとなっていく。
 演技の端々に千葉ちゃんが、JACの愛弟子・真田を可愛がっている様子がひしひしと伝わってくるのも気持ちいい。ただ、せっかく愛弟子を応援するんだったら、千葉ちゃんはもうちょっと控えめな役を演じて、見せ場を弟子に譲った方がよかったかも。ま、そんな目立ちたがり屋なところが千葉ちゃんらしいところでもあるんですけどね(笑)。
 それと、秋吉久美子の自然でアンニュイな魅力も、今見ても実に新鮮でGOOD!! これがアメリカ映画なら、きっと思いきり美人でグラマーな女優を持ってくるところだろうけど、ここは秋吉久美子でベストキャスティングだったと思います。


▲映画の中には、現在のように完全に朽ち果てる前の、イイカンジに廃墟化した軍艦島内の風景が、ふんだんに登場する。
▲秋吉久美子は、本編では軍艦島のシーンには登場しない。これは予告編だけにあるカットで、この赤いジャンプスーツも本編では着ていない。この他にも、予告編には本編にないシーンがたくさんあり、まるでイメージフィルムのようである。どうやら予告編だけをわざわざ軍艦島で撮影したようだ。
 ところで、この映画、ぼくは10年以上前からずっと見たいと思っていた作品だったのだ。というのは、この映画のクライマックスシーンが軍艦島を舞台に撮影されているからだ。ぼくは香港の九龍城砦と共に、この軍艦島に不思議な魅力を感じているのである。
 軍艦島というのは、正式名称は端島はしまと言い、長崎県の沖にある面積6.3ヘクタールの小さな島だ。かつてはここに炭坑とそこで働く人々の町があり、1960年代の最盛期には5000人の人が暮らしていた。周囲をコンクリートの護岸が囲っており、その外観が軍艦に似ていることから軍艦島と呼ばれる。1974年の閉山と共に島は無人の廃墟となり、現在でも朽ち果てるままに、海上にその威容を残している。
 10数年前までは映画やテレビのロケに使われたり、釣り人なども訪れていたようだが、現在は建物の風化が進み、危険なために一般の人の立ち入りは禁止されているとか(未確認)。
 ぼくのジュヴナイル小説『鋼鉄都市アガルタ』(小学館SQ文庫)は、東京湾の真ん中に希少金属を採掘する鉱山の島があるという設定なんだけど、そのアガルタ島のイメージは、まさにこの軍艦島だったのだ。
 インターネットで検索すると、この軍艦島のような「廃墟が好き」という人は、世の中にけっこう多いらしい。廃墟はなぜ人を惹きつけるのだろうか。
 いやー、それにしても、この軍艦島の映像が見られただけでも、この映画を見た価値はあったというものです。あと、秋吉久美子の最も魅力的な頃の笑顔もね。
 ただ不満だったのは、映画の中では、この軍艦島のシーンが沖縄という設定になっていたこと。別に九州にしても何ら問題はなかったと思うのだが、なぜ沖縄だったのだろう。

(2001/08/31)


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