『放課後』 (1973年 東宝映画作品)

製作/田中収
監督/森谷司郎
脚本/井出俊郎
撮影/村井博
音楽/星勝、多賀英典
美術/阿久根厳
出演/栗田ひろみ、地井武男、宇津宮雅代、宮本信子、篠ヒロコ、沢井正延
カラー 89分
 女子高生・亜矢子(栗田)の隣家は、同級生・勉の家で、そこには若夫婦が間借りしている。
 亜矢子は、自分でも気付いていないが、その若夫婦の夫・研二(地井)に密かに思いを寄せており、たまたま研二が女性と歩いているところを写真に撮り、妻・夏子(宮本)に見せて、夫婦の間に波風を立てようとする。
 この映画が作られた73年ごろは、メディアの描く若者と、実際の若者の姿が乖離しはじめたころだと、ぼくは思っている。この映画に登場する亜矢子という少女も、当時の現代っ子風にしようとしている様子はうかがえるが、実際には60年代に作られた映画に出てくる若者と何ら変わっていない。
 しかし、それだけに純粋で小悪魔的な少女の描写には、妙な懐かしさと新鮮さを感じるのも事実。
 特に、栗田ひろみという女優そのものが70年代の少女像を象徴していてすごくいい。とりわけ美人じゃないけどコケティッシュな魅力がある、秋吉久美子系の女優さんですね。80年代でそれに当たるのは、森下愛子かなぁ…。
 隣家に住む同級生の少年がカメラマニアという設定で、写真が随所にキーアイテムとして使われているが、好きな人の写真を欲しがるという、フェティッシュでプラトニックな恋心なんてものを、この映画でひさびさに思い出しましたね(笑)。
 森谷司郎監督の、突き放したような淡々とした演出も、この映画の場合にはワリとよくマッチしていたと言えるでしょう。

 森谷司郎は、黒澤明監督の『用心棒』(1961年)、『椿三十郎』(1962年)、『天国と地獄』(1963年)などに助監督としてついたあと、加山雄三主演の戦争映画『ゼロ・ファイター大空戦』(1966年)で監督デビューした。
 この作品以前には、加山雄三と内藤洋子が主演した『兄貴の恋人』(1968年)や、庄司薫の小説を原作にした『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1970年)などの青春映画の佳作を撮っている。同監督の演出は、この時代のタッチがいちばん好きですね。
 しかし森谷司郎は、この作品の直後に『日本沈没』(1973年)を監督してヒットさせ、それ以後は、『八甲田山』(1977年)、『聖職の碑』(1978年)、『動乱』(1980年)、『海峡』(1982年)、『小説吉田学校』(1983年)と大作ばかりを撮るようになり、青春映画は撮らなくなってしまったのだった。

(1999/10/27)


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