『八月はエロスの匂い』 (1972年 日活作品)

企画/岡田裕、武田靖
監督/藤田敏八
脚本/藤田敏八、大和屋竺
撮影/安藤庄平
音楽/真田勉
美術/木村武
出演/川村真樹、片桐夕子、永井鷹男、粟津 號、むささび童子、しまさより、中野由美、堺美紀子、清水国雄
カラー 73分 ※オリジナルはシネマスコープサイズ
 藤田敏八監督が、日活ロマンポルノ路線の中でメガホンを取った第1作。
 デパートの貴金属売り場で働く圭子(川村)は、レジの金を奪って逃げた斜視の男が忘れられなくなる。
 その後、遊園地の喫茶店でその男がボーイをしているのを発見。一度は逃げられるが、恋人とドライブ中のフェリーの中で、再び男が仲間たちと共にいるのを発見する。圭子は恋人と共に男たちを車で尾行する。
 藤田敏八の演出は、この前年、日活映画最後の作品『八月の濡れた砂』(1971年)を演出したときのようなギラギラしたものが感じられずぼんやりとしたもので、ロマンポルノ路線への手探りの様子が伝わってくる。
 しかし、登場人物の誰もが目的を見失い、倦怠感に満ちている、といった状況にはヒシヒシと伝わってくるリアリティがあり、今見ると、70年代という時代がひたすらに懐かしく感じられてしまうのだった。
 藤田敏八は、このあと『エロスの誘惑』(1972年)、『エロスは甘き香り』(1973年)を撮り、いわゆるエロス3部作を完成させた。
 余談だが、ぼくは大学4年のとき、銀座地球座でこの3部作の3本立てを見ようと思ったら、ロビーに入ったところで支配人らしきおじさんに「あ、ちょっと、お客さんおいくつですか?」と呼び止められたことがある。
「ぼく? もうとっくに20歳を過ぎてますよ、免許証見せましょうか」と言ったら、支配人は「失礼しました、けっこうです」と言ったけど、ロビーにいた客には注目されちゃうし、恥かしくて、この映画の内容もほとんど記憶に残っていませんでした(笑)。

(1999/10/26)


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