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『狼少女』 (2005年 「狼少女」フィルムパートナーズ 作品)


©2005「狼少女」フィルムパートナーズ
監督/深川栄洋
エグゼクティブプロデューサー/横濱豊行、 松澤亜椰子
原案・脚本/大見全
脚本/小川智子
出演/鈴木達也、大野真緒、増田怜奈、大塚寧々、利重剛、手塚理美
カラー ワイドサイズ
 2005年の函館港イルミナシオン映画祭でシナリオ大賞グランプリを受賞した脚本の映画化だという。
 1年ほど前の深夜、仕事を終えて何気なくつけたケーブルテレビで放送していて、ぼんやりと見ていたら次第に引き込まれ、そのまま最後まで見入ってしまった作品だった。それがずっと気になっていて、今回、久々に通しで再見することにした。
 物語は1970年代の東京近郊の地方都市が舞台。小学4年生の大田明(鈴木)の住む街に「狼少女」を見せる見世物小屋がやってくる。その明のクラスにはボサボサの髪をしてランドセルも買えない貧しい少女・秀子(増田)がいて、秀子のあだ名はたちまち「狼少女」にされてしまう。またちょうどそれと同じころ、明のクラスに転校生の美少女・留美子(大野)がやってくる。この3人を軸に、子どもたちの感受性豊かな日常を懐かしい風景の中で描いたのがこの作品だ。
 ロケ地は茨城県の水海道だそうで、いい感じに古びた街並みと、それに隣接した里山が映画に味わいを添えている。
 ただ実際は、演出にも演技にも美術にもけっこう突っ込みどころは多い。例えば、出てくる大人たちがみなステレオタイプなのはいかがなもんだろう。明の両親とか秀子の母親とか、それぞれいい演技はしてるんだけど、どーも、ありきたりなんだよねー。それと、親なのに普段子どもたちとどう接しているのか、そうした映像で描かれていない裏の部分がまったく見えてこないというのが見ていてもどかしいというか何というか……。
 また、昭和テイストにこだわるならば、見世物小屋の呼び込みのおっちゃん(田口)にももう少しがんばってもらいたかった。ああいうおっちゃんはノドがつぶれてダミ声になってなければウソだし、呼び込み口調ももっと生臭くないと! と、そんな大人の中で唯一生臭かったのは、怪しげな手品グッズを売る露天商のおっちゃんを演じたなぎら健壱だけだった。本来ならば、こういうファンタジー映画こそ、登場人物はみな生臭くなくちゃいけないんだと、あらためて思った次第である。そのあたり、例えば宮崎駿の映画に出てくる異界の大人たちの生臭さは何とも言えませんな。
 あともうひとつ気になったのは、この映画はいったい誰を観客に想定しているのかという点だ。主人公たちと同世代の子どもに見せる映画だとすれば大人のノスタルジーが鼻につくし、大人を対象としているなら大人の視点がまったく入っていないのはどうなのかと。
 ……とまあ、こうして後から書いてると、いろいろと言いたいことは次々と出てきちゃうんだけど、実際、見ている間はそんなことはほとんど気にならず、少年たちの素直な演技と表情に引き込まれ、全編にあふれる詩情にグッと来て、とちゅうでだいたい読めてしまうラストシーンにも、思わず涙を流させられてしまうという、何ともくやしい佳作なのだった。
 ちなみにこの映画の原案脚本でシナリオ大賞を受賞した大見全(おおみ・たもつ)という人がどんな人なのかググってみたところ、情報は少なかったけど、どうやら沖縄県出身のフリーの映画助監督だということだ。しかしこの映画以後はそのお名前を見ないので、どうやら脚本の仕事は続けていないようである。

(2011/06/02)

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