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『突入せよ!「あさま山荘」事件』 (2002年 東映、アスミック・エース、TBS作品)

監督・脚本/原田眞人
プロデュース/原正人
原作/佐々淳行
撮影/阪本善尚
美術/部谷京子
音楽/村松崇継
出演/役所広司、宇崎竜童、伊武雅刀、天海祐希、串田和美、椎名桔平
カラー ビスタビジョンサイズ 133分
 1972年に起きたあさま山荘事件を、事件当時、警察庁警備局付監察官として現場で指揮を執っていた佐々淳行を主人公とし、事件から30年後に映画化した作品だ。原作は佐々本人の著書『連合赤軍「あさま山荘」事件』で、佐々を役所が演じている。
 現代の映画らしく過剰な演出や活劇的な描写は抑えられ、その分、警察庁と長野県警の確執や警察内部の人間模様などに多くの時間が割かれた人間ドラマとなっている。
 各配役に個性的な役者を配置して、それぞれが役どころにはまったいい演技を見せているため、ドラマとしての吸引力はそれなりのものがあり、最後まで飽きずに見させられてしまう。役所広司のどこか力の抜けた、それでいて強い意志を持った監察官のキャラクターもいいけど、最初は逃げ腰だったのが次第に開き直り、やがて本気になってくる警察庁主席管理官宇田川を演じた宇崎竜童の微妙な演技も見所だ。
 監督の原田眞人は、ぼくの好きな映画『さらば映画の友よ インディアンサマー』(1979)を撮った人で、熱い思い入れをストレートに描くのではなく、それを一度突き放して離れたところから淡々と描くのが実にうまい監督だ。木村一八の主演で1990年から92年の間に5本が作られたビデオシネマ「タフ」シリーズ(うち1本は脚本のみ)なども同様の意味で傑作だった。その独特の演出が今回も生かされていたと言えるだろう。
 ただ残念だったのは、事件から30年が経過した現代の観客に対しては、当時の時代背景や事件前後の状況などがほとんど説明されていないことだ。
 連合赤軍の生まれた背景、彼らがあの山荘に立てこもるに至った経過などを説明してくれないと、当時を知らない人にとっては話がほとんど見えないし、警察が立ち向かう敵の表情も見えず、誰のどこに感情移入をして見ればいいのかが分かりづらい。
 同様に、山荘の構造もあまり詳しく説明されないままに突入シーンが描かれるために、どこで何が起きているのか、突入した警察がどこまで制圧したのかなども全く見えないのだ。
 また、過去に起きた実話や事件を映画化する場合、常につきまとうのは「いまなぜこの事件を映画するのか」という疑問だけど、それに関しては、残念ながらこの映画にも明確な答えはなかった。当時を知る人が過去を振り返るために見る映画だったのか、それとも当時を知らない人に見てもらうための映画だったのか、果たしてどうなのだろうか。
 ただ、30年経ってこの事件を映画化したことで見えてきたものもあった。当時の日本の警察が取っていた「犯人に対しても絶対に発砲せず、生け捕りが至上命令」であったという事実である。現代ではテロリストに対して譲歩することはマイナス以外の何物でもなく、犯人は即射殺が世界の常識とされている。そして多くの場合、きっとそれが正解なのだろう。
 だけどこの映画を見ると、本当に常にそれでいいのかどうかが分からなくなってくる。殺してしまえば簡単だ。しかしそれをせず最後まで人質救出と犯人生け捕りにこだわるやり方も、時にはありなのではないだろうか。お人好しと言ってしまえばそれまでかも知れない。だけどそこには一方で、大切な日本人の心があったようにも思うのだ。この映画が現代に描かれた意味があるとしたら、ぼくはここにあったのではないかと思うのだが、どうだろう。

(2004/08/22)

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