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『一夜の百万長者』 (1957年 大映京都作品)

監督/斎藤寅次郎
製作/武田一義
原案/浅井昭三郎、松村正温
脚本/伏見晁
企画/山崎昭郎
撮影/今井ひろし
音楽/中村淳真
美術/神田孝一郎
出演/花菱アチャコ、春風すみれ、舟木洋一、若松和子、浪花千栄子、堺駿二
モノクロ スタンダードサイズ 68分
 戦前から戦後まで数多くの傑作喜劇を残した名監督・斎藤寅次郎の後期の作品である。
 舞台は大阪天王寺。ギャンブル好きのダメ亭主・茶山三吉(花菱)は、夫婦でコツコツと貯めていた小料理屋の回転資金までを競輪でスッてしまい、夫婦の危機に!!
 アパートの管理人・俊三(堺)の提案で、茶山は一時女房と別居をし、屋台のうどん屋をやって稼ぐことになった。と、そんなある日「うどんを一杯恵んで欲しい」 とやってきた乞食が、うどんの代わりに一枚の拾った宝くじを置いていった。すると何とその宝くじが400万円の当たりくじだったのだ……!!
 斎藤寅次郎は日本のチャップリンとも言われ、その名に恥じぬ人情喜劇を数多くものした鬼才だ。1920年代から1960年代までに実に200本以上もの作品を監督しているが、ぼくは恥ずかしながら大学に入るまでその名前を知らなかった。
 ところがそれでも、美空ひばり主演の『東京キッド』(1950)とか、花菱アチャコ主演の『ハワイ珍道中』(1954)など、彼の名を意識せずにすでに見ていた作品も多かった。
 それで彼の作品をもっと見たいと思い、当時「ぴあ」を頼りに必死で追いかけたのだが、その頃は彼の監督作品はなかなか名画座にかかることが少なく、ごくたまに彼の作品が京橋のフィルムセンターや、池袋・文芸坐のオールナイトなどに掛かると小躍りして喜んだ思い出がある。
 この映画は今回が初見だったけど、ほとんど後期の作品にもかかわらず日本の喜劇王は健在で、花菱アチャコや堺駿二らのかけあいは絶妙で実に楽しい。キートンやチャップリンの伝統を受け継ぐアメリカ喜劇のようなスピード感は全くないけれど、言葉としぐさでトントンと調子よく運ぶ軽妙なテンポは、アメリカ喜劇よりむしろこちらの方が数段上だろう。これぞ日本の職人芸! のんびりしていながらもちょっとクドくてアクのある笑いが、今見ても本当に面白く笑えるのだ。
 シナリオも良く出来ていて、最初は、移り気なダメ亭主の生き方に合わせてあっちへフラフラ、こっちへフラフラと揺れていた物語が、ラストでストンと1点に気持ちよく落ちてくれる、この絶妙の間合いが素晴らしい。落語を愛する日本人による日本人のための喜劇なんだなぁ、とつくづく感じる。
 こういう日本のクラシック映画を見るといつも思うのは、今の映画人も、ハリウッド映画や韓国映画など旬な映画をまねするばかりじゃなくて、もっと日本映画の古典に学ぶべきではないかということだ。日本映画はかつていかに名作を生んできたか。そこに未来の日本映画を見渡すひとつの答えがあるとぼくは強く思う。
 因みに山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズで、渥美清演じる主人公の名前・車寅次郎というのは、この斎藤寅次郎監督へのオマージュであるという。山田監督本人の言葉や文章で見聞きしたわけではないので事実かどうかは未確認だけど、一応メモとして書き留めておきます。

(2004/07/16)

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