Top 柴又名画座 No.225 Back
『ボウリング・フォー・コロンバイン』 (2002年 カナダ・アメリカ作品)

原題/BOWLING FOR COLUMBINE
監督/マイケル・ムーア
脚本/アイケル・ムーア、ブライアン・ダニッツ
製作総指揮/ウォルフラム・ティッチー
撮影/ブライアン・ダニッツ、マイケル・マクドノー
音楽/ジェフ・ギブス
出演/マイケル・ムーア、チャールトン・ヘストン、マリリン・マンソン、マット・ストーン、ジョージ・W・ブッシュ(記録映像)
カラー ワイドサイズ 120分
 気になってはいたけど見る機会を逸していたこの映画。今回、同じマイケル・ムーア監督の作品『華氏911』がアメリカで公開され、この『ボウリング〜』公開当時と同じような(あるいはそれ以上の)物議をかもしていることから、このチャンスを逃したら2度と見ないかも知れないと思って見ることにした。
 この映画を一言で言うと、「アメリカ銃社会の矛盾を鋭く批判したドキュメンタリー映画」とでもなるのだろうか。実際、公開当時、多くのマスコミがそのように紹介していたように思う。
 ところが実際に見てみたところ、上に書いたこの作品の紹介文は当たっているようで全然当たっていないことが分かった。
 開巻、まずはムーア監督が自ら、とある銀行に口座を開きに行く。その銀行では何と口座を開いた客に、本物のライフル銃をその場で(!)プレゼントしてくれるのだった。口座を開設し、ライフル銃を担いで意気揚々と銀行を出てくるムーア監督。銃社会を批判するための皮肉たっぷりのオープニングだ。これは面白そうだぞ……と期待したのだが、それからは批判の矛先が右を向き左を向き、だんだんと散漫になってしまい、ときには方向違いのところを批判したりして、どうも落ち着きがない。
 この映画の最大の見せ場は、「銃所持はアメリカ人の権利である」という自説をラジカルに展開する全米ライフル協会の会長にしてハリウッドスターのチャールトン・ヘストンをアポなし取材する所だが、この取材にしても、ムーア監督は、鷹揚に会見に応じてくれた老ヘストン氏に、チクチクと皮肉を言ってわざと怒らせただけとしか思えない。
 この取材スタンスは明らかにジャーナリストのそれではない。けどどこかで見たことがあるなぁ……と思っていたら、日本のバラエティ番組だった。そう、これは皮肉とパロディを散りばめたブラック・ユーモアに満ちた、ドキュメンタリー映画のフリをしたバラエティ番組だったのだ。
 これを社会批判のドキュメンタリーだと思って見るとその偏向ぶりや露骨な作為が腹立たしくなってくるが、バラエティだと分かって見るとなかなか面白く見えてくる。
 監督は、銃乱射事件で重傷を負った被害者のふたりの少年と共に、スーパーマーケットチェーンの本社をアポなし訪問し、 「この少年たちは、おたくのスーパーで売っていた銃弾で撃たれました。だからおたくのスーパーで銃弾を売るのをやめて欲しい」 と訴えに行くところなど、日本のテレビ番組でほとんど似たようなシーンを見たことがある気がする。
 スーパーマーケット側の担当者も、カメラが撮影しているからむげに追い返すわけにもいかず、ひきつった笑顔で対応するしかない。それをいいことにムーア監督は担当者にもー言いたい放題(笑)。結局、スーパー側は折れて「90日以内に段階的に銃弾の販売をやめる」と約束させられる。結果的にはいいことをしたんだろうけど……監督がカメラの暴力性を利用したことは否定できない。少なくともドキュメンタリーというスタンスからは逸脱してますね。
 ちなみに題名の由来は、1999年にアメリカ・コロラド州のコロンバイン高校で起きた銃乱射事件の加害者となったふたりの少年が、事件を起こす直前にボウリングをやっていた、ということから来ている。
 これだけじゃまだ何のことか分からないけど、映画のナレーションから意訳すると 「専門家は、犯人の少年の言動や心理や少年が銃を入手しやすい社会環境などについて大きく問題にするのに、なぜ少年たちが事件の直前にボウリングをやっていたことを問題にしないのか」という皮肉を込めたらしい。まあ、これを聞いてもまだぼくには、この皮肉がよく分からないんですけどね(笑)。

(2004/06/28)


[Top] | [Back]