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『MOMENT』 (1981年 MODERN SOUL PICTURE、MOVIE MATE 100%作品)

企画・脚本・監督/手塚真
撮影/今関あきよし
出演/矢野ひろみ、今井萠、斉川由美、西村良明、小林ひろとし、船越栄一郎、豊田和男、湯本ひろゆき
8mmフィルム カラー 75分
※今回のテキストはDVD版による上映
 今を去ること22年前……当時18歳の手塚真(現・手塚眞)くんが、大学入学と同時にプロジェクトを立ち上げ、多くの若い自主映画作家やその仲間を巻き込んで、およそ1年をかけて作りあげた大作8mm映画である。
 ちょっと前置きが長くなってしまうけど、ぼくとこの作品との関わりを書いておくと、ぼくもこの作品が作られる前年の1979年に拙い8mm映画を作り、それを雑誌「ぴあ」のオフシアター・フィルムフェスティバル'79というイベントに投稿した。それが縁となって、手塚真くんを始め、今関あきよしくん、小林ひろとしくんらの映画仲間と知り合い、お互いの映画を見せ合ったり、上映会を開いたりという交流が始まった。
 そんな流れの中で、手塚くんが新しい映画を撮ることになり、ぼくも一緒に参加しないかというお誘いを受けたのだ。それはぼくにとってとてもうれしいことではあったが、同時に不安も大きかった。
 というのは、そのころすでに手塚くんは、高校生のころに監督した『FANTASTIC★PARTY』(1978)という8mm映画で高い評価を受けており、今後の活動が大いに注目されていた作家だったからだ。おまけに撮影を担当するのは、これまたすでに『ORANGING'79』という大々々傑作をものしていた今関あきよしくんであり、それ以外のメインスタッフたちも、それぞれに自分自身の監督作品を持っていたり、何らかの秀でた才能を持った優秀な人たちばかりが集まっていたのだ。そんな中でぼくはといえば、わずか数本の、それもほとんど習作のような8mm映画を撮った経験だけしかなく、そんなぼくにいったいどんな協力ができるのだろうかと考えてしまったのである。
 それでもぼくが迷ったのは、恐らく現実の時間にすれば0.5秒くらいだろう。ぼくは「自分のできることを精一杯やろう!」と腹を決め、意を決して参加を引き受けた。何しろ、手塚くんの入魂の新作が誕生する、まさにその瞬間、その過程に立ち会えるのだ! こんな幸せなことはないではないか!!
 当時スタッフルームのようになっていた今関くんの家の2階で、プロデューサーの湯本くんから、真新しく分厚いシナリオを手渡されたときの、身が引き締まるような気持ちを、ぼくは今でもはっきりと思い出すことができる。
 ただ実際に撮影が始まると、現場となったエリアとぼくの自宅が遠かったために、残念ながらフル参加というわけにはいかなかった。しかしそれでも撮影にはできる限り出席し、スティル写真の撮影やエキストラ出演などで、わずかながらでもお手伝いができたんじゃないかと思っている。また、当時ぼくが発行していた映画ミニコミ誌『ふぁにぃかんぱにぃ』でもこの映画を全面的にバックアップ。撮影ルポやスタッフのコラム、SF作家新井素子さんと手塚真くんの対談などを掲載して大いに盛り上げたのであった。
 そんな思い出深い映画が今回、ポニーキャニオンからDVDになって発売さることになり、それを記念して、ここ渋谷のアップリンクファクトリーで上映会が開かれたのである。
 ストーリーは、高校生の女の子・ポッキー(矢野)が、こおろぎ広場の良く当たる占い師(石上三登志)から「あんたは3日後に死ぬ」と予告されたところから始まる。
 深刻に悩むポッキーの周りでは、クラスメートの団三郎(小林)がアリス(今井)への片想いに悩み、そのふたりの仲を取り持とうとする矢野(西村)がポッキーに相談を持ちかけたりと、何気ない日常が展開していく。そんな中、病弱な少年(登駒和呈)や、町を爆弾で破壊しようとするアナーキストかぶれの少年(豊田)などが次々と現れてはポッキーの不安を高める中、ついにその3日目が訪れる。ポッキーは最後の瞬間をボーイフレンドの小田(船越)と共に過ごそうとするのだが……。
 ぼくがこの映画を見るのは実に10年ぶりのことだ。実は当時スタッフだった友人からVHSにダビングしてもらったものは前から持ってたんだけど、見るのがもったいなくて、2度ほど見ただけでずっと大切に封印してあったのだ。
 その封印を解き、今回再見してつくづく驚いたのは、当時の手塚くんの演出の明晰さとストーリー構成のシャープさである。技術的にも機材的にも不十分な環境でやっているため、たまに表面的に拙く見える場面などがあるのは仕方ないが、一貫した演出の視点にはまったくブレがない。これには本当にびっくりである。実際、この作品は、20年以上たった今でも、全く緊張感を失わずに見ることができる。
 マンガ的にデフォルメされたコミカルなタッチで始まった映画が、やがて少しずつネガティブな面をあらわにし始め、やがてアッと驚くシリアスなエピローグへと向かう……。当時のぼくには、この意外な結末に至った理由は、手塚くんのホラー趣味に由来するものとしか見えていなかったことがお恥かしい。今になってようやく分かったことは、これは綿密な計算の元に手塚くんが仕掛けた、フィクションと現実との接点を見出す壮大な実験だったということだ。

 この作品についてはまだまだ語るべきことは山ほどあるような気がする。映画史的に見ても、手塚眞の作家や作品を研究するという側面からも。
 でもぼくには、これ以上この映画について作品論は語れそうにない。何しろぼくにとってこの映画は、1シーン1シーンがどれも青春の一時期そのものの象徴なのである。この映画の中では、あのころ出会った多くの仲間たちが、今も変わらぬ笑顔を見せている。そしてそんな彼らにレンズを向けていた今関くんの8mmカメラの後ろには、あのころの22歳のぼくがいたのだ。

 因みに、ぼくがこの映画にエキストラとして出演しているのは以下の2シーンです。まずひとつは冒頭の教室の場面で、ここでは生徒のひとりとして、頭のてっぺんに赤塚不二夫のマンガに出てくるハタ坊のような日の丸の旗を立て、机の上で焼きそばを焼くという奇妙なキャラクターとして登場している。ぼくは今でも自画像を描くときには頭のてっぺんに日の丸を立てて描いているがそのルーツはここにある。
 あともうひとつは中盤のミュージカルシーンで、踊りのセンスがまるでないのに真っ赤なシャツと真っ白なジーンズという目立つ服装で参加していて、今見るととても恥かしい(笑)。でも、DVDを買われた方でおヒマな方は、よかったらチェックしてみてくださいね。

 それから参考までに、ポニーキャニオンのホームページはこちら。同サイト内の『MOMENT』紹介ページはこちらです。因みに『MOMENT』から派生して、当時東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放送された「お茶の子博士のホラーシアター」という、手塚くん監督による幻のホラー短編シリーズも今回DVDとして同時発売されています。手塚眞ファンはぜひチェックしてみてください。※外部リンクのためリンク切れになる場合があります。

(2002/12/17)

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『DAWN OF THE THEATER』 (1980年 MODERN SOUL PICTURE作品)

NO PICTURE
監督/手塚真
撮影/今関あきよし、佐々木明広、他 出演/手塚真、今関あきよし、小林ひろとし、湯本ひろゆき、佐々木明宏、庄司真由美、小口基史
8mmフィルム カラー 20分
 この作品は、今回の試写会イベントにおいて特別上映された手塚くんの初期の8mm作品である。1980年3月8日、日本でスティーブン・スピルバーグの新作映画『1941』が公開された。その初日第1回の上映を見るために、新宿歌舞伎町の映画館・ミラノ座の前に、前日の夜から徹夜で並び、翌朝11時に映画館が開いて入館するまでの様子を記録した、異色のドキュメンタリー映画である。
 そもそも映画を見るために徹夜をする様子を映画にしようという発想そのものがすごいが、その展開もまた予想を超えるものだった。
 手塚くんたち、この作品のために徹夜をしたスタッフ以外に徹夜組となる観客はまったくおらず、早春の夜は深々と冷えてくる。巡回の警備員から「気をつけてね」と親切な声を掛けられる。暖を取ろうとして屋台でおでんを買おうと思ったらタコは400円で高くてあきらめ、40円のじゃがいもで我慢する。ハイになったスタッフが噴水前を走り回る。マックで買ったコーヒーの差し入れがある。そしてやがて夜が明けた……。
 ドラマチックでも何でもない若者たちの一夜が淡々と過ぎて行く。自分たち以外の観客は一向に訪れない。しかし、そんな中で過ごす彼らの姿が、まるで大晦日の夜に初めて夜更かしを許された子どものように見えて、たまらなくいとおしく、懐かしい。
 監督の、徹夜組の観客を取材しようという目論見が外れた時点で、最早この映画は極私的なプライベートフィルムになってしまった…はずだった。ところが、そこからもっと別の、さらに深い普遍的な「何か」が産み出されたことに、夜明けと共に気付かされるのである。
 夜明け近くなり、周囲に人の流れができはじめる。同じ日に隣の映画館で封切られるアニメ映画『あしたのジョー』の方に人が並び始めた。手塚くんらは、仕方なくそちらの観客のインタビューを始める。そして、ついに手塚くんたちに続く、2番乗りの映画少年2人組が現れ、ミラノ座の前に並んだのだった。
 同世代の彼らにさっそくカメラとマイクを向ける手塚くんたち。そのカメラの前で戸惑いながらインタビューに答えていた2人の少年をぼくは良く知っている。そして今もこの試写会場で、ぼくの隣の席に仲良く並んで座っているのである。
 実はその2人、永野寿彦くんと、田代幸男くんの2人は、この映画館での手塚くんたちとの出会いがきっかけとなって『MOMENT』の製作に関わることになり、やがて2人ともサラリーマンをやめて、永野くんは映画評論家となり、田代くんはブルース・リーへの憧れを貫いて太極拳の師範となってしまったのだ。
 手塚くんの映画には、この映画がいい例だが、周囲の人をどんどんと巻き込んで本気にさせてしまう不思議な力を持っているのだ。それは本人の人格そのものも同じで、彼の周りには、秘めたる才能を持った人々が自然と集まり、それぞれに手塚くんに触発されてその才能を開花させていくのである。もしかしたら、これこそが真のカリスマと言うのではないだろうか。

(2002/12/17)

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『ORANGING'79』 (1979年 MOVIE MATE 100%作品)

製作・監督・脚本/今関あきよし
撮影/今関あきよし、小林ひろとし、他
出演/三留まゆみ、田代豊一、手塚真
8mmフィルム カラー 25分
 この作品は、上記2作品の翌日、一般公開日にゲスト作品として上映されたものである。『MOMENT』で撮影監督を務めた今関あきよしくんが、その前年に製作し、ぴあのオフシアターフィルムフェスティバル'79で、手塚くんの『FANTASTIC★PARTY』と同時に入賞した傑作青春少女映画である。
 前にもどこかで書いたことがあるかも知れないけど、「人生の中で、何度でも繰り返し見たい映画」というものが、あなたには何本くらいあるだろうか。
 世の中に「傑作」とか「名作」と評価できる映画は星の数ほどあるが、何度繰り返して見ても飽きずに楽しめる映画というのはそう多くはないだろう。
 ぼくの場合は例えば『小さな恋のメロディ』(1970・英)や『男と女』(1966・仏)などがそれであり、その中に、この今関あきよし監督の8mm映画『ORANGING'79』がダントツ首位で入っているのだ。
 ぼくは当時、劇場映画のような映画が撮りたいと思って8mmカメラを買った。そのころ、多くの自主映画作家が同じような立脚点に立っていたはずだ。ところがこの『ORANGING'79』は、そんな既製の映画という概念から完全にはみ出した、純粋な感性が産み出した全く新しい映画だったのだ。
 絞りを開いて露出オーバー気味にしたハイキーな映像と、そこにかぶさる音楽やラジオなどの音声の無秩序なリミックス。しかしそれは今どきのありがちなプロモーションビデオのそれではなく、佐々木昭一郎の作る整然とした映像詩の世界ともまた違う。今までに体験したことのない、全く新しい今関あきよし独自の感性の世界としか形容できない世界だったのである。
 その今関くんが向けたレンズの向こうで、当時高校生だった主演の三留まゆみちゃんは、生の女の子としての息づかいを感じさせながらも、フィルムの中でどんどんと現実を離れてファンタジーの世界へと入り込んでいく。
 そんな彼女の笑顔が、あまりにもまぶしくて、つい目を細めてしまいそうになるのを、ぼくはジッとこらえては、また目を見開くのだ。うーん、このあたりは実際に映像を見てもらうしか説明しようのない感覚なんだよねー。もどかしい。
 この映画こそ、ぼくはビデオも持っておらず、DVD化も難しいため、いつまた再会できるか分からない。映像は予想以上にきれいだったけど、音声トラックの方はかなり損傷しているらしく、音がブツブツと途切れるところも多かった。いずれこの映画も幻となってしまうのだろうか……。
 今度は、いつまたこの映画と再会できるのだろうか。そう思うと、今回の上映は、ぼくにとって一瞬一瞬がたまらなくいとおしく、あのころの思いをゆっくりと反芻しながら、片時も目を離すまいとして画面に見入っていたのだった。

(2002/12/18)


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