違法コピーソフトの楽園(?) Warez への入り口

「Warez」という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本語で発音すると「ウエアーズ」。これは、主にインターネットを介して流通している違法コピーソフト、またはその流通形態そのものを示す隠語である。
 ホームページに市販のアプリケーションソフトをそのまま掲載し、そこにアクセスしてきた人に無料で提供する。もちろん、これは紛れもない違法行為である。
 これらのホームページは yahoo や goo などの検索サイトで検索してもほとんど見つけることができない。稀に引っかかったとしてもすでに潰れていることが多い。だが、だからといってウエアーズのサイトはマイナーであるどころか、ネットワーク社会の中の表のウエブリンクとは切り離されたところで、巨大なコミュニティーを形成しているのだ。
 通常、ウエアーズの世界では、ウエアーズとストレートに表現することは少ない。ローマ字読みして「われず」と発音したり、そこから転じて「割れ物」などと表現したりする。ウエアーズを扱うことを「割れる」と言い、「割れている」人々は自分たちの事を「ワレザー」とか「割れ者」と称する。文字表記をするときにも「W@REZ」「ω@RεS」などと形態の似た別の文字を当てて warez という単語を使用せず、当局から目をつけられることを避ける。あえて全角文字を使用するのは、海外からのアクセスを拒否するためである。海外にはハードな“ワレザー”が多く生息するため、彼らのアクセスが集中するとサーバーに負荷がかかり、管理者からサービスを停止されてしまうことがあるからだ。
 海外、特にアメリカにおけるウエアーズの歴史は古く、その規模も巨大で、海外の検索サイトを利用すれば、英語版のソフトならば簡単に手に入れることができる。
 しかし日本のウエアーズサイトが活性化しはじめたのはせいぜいここ1〜2年のことであり規模も小さいため、通常のネットサーフィンをしているだけでは見つけ出すことはかなり難しい。ただし1度そのネットワークの中に入り込んでしまえば、あとは芋蔓式にリンクをたどってその世界の深淵にのめり込むことができるのだが……。
 それまでウエアーズ系サイトの存在は知っていても全く興味のなかった俺が、偶然にもそのコミュニティに迷い込んでしまったのは、かの酒鬼薔薇事件のときだった。酒鬼薔薇聖斗と自称したその少年の書いた文章や写真、そして実名などがインターネット上に流通していると聞いたからである。俺は単なる暇つぶしにと、それを探してみるべくネットの探索を始めた。こういう場合、前述したように yahoo などで「酒鬼薔薇」と入力してもそのテのサイトが引っかかることはまずない。こういう場合の検索に役立つのは、アマチュアのハッカーが作成したプライベートなリンク集なのである。まず検索エンジンに「アンダーグラウンド and リンク」とか「殺人 and リンク」などと入れて個人のマニアックなリンク集を探し出す。そしてそれらを1つ1つしらみつぶしに当たっていくのである。
 果たして1時間後には、俺は酒鬼薔薇なる少年の本当か嘘かわからない住所・本名・電話番号などの個人情報、そして週刊誌に掲載された顔写真をスキャンした画像データや、脅迫文の全文などを見ることができた。
 そしてその帰り道に、そのリンク集から、俺は初めてとあるウエアーズサイトへと迷い込んでしまったのである。そこには市販されている定価1万数千円のホームページ作成ソフトの最新バージョンがアップロードされていた。俺は別にそのソフトが欲しかったわけではないが、立ち寄ったついでにと気まぐれにダウンロードして、掲示板に挨拶のメッセージを書き込んで立ち去った。
 ファイルは20数個のファイルに分割され、さらに拡張子が「.jpg」に偽装されていた。拡張子はリネームすれば元に戻るが、分割したファイルを結合するには専用のソフトが必要らしい。俺は再びインターネット上を徘徊し、結合するためのソフトを見つけ出した。そうして俺のPCにインストールされたそのホームページ作成ソフトが見事に起動したときには、思わず「おお」と声をあげてしまった。瞬時にして(でもないが)俺のPCの中で、1万数千円の価値が崩壊してしまったのであるから。
 俺は、フロッピーやMOなどを介して違法コピーソフトをやり取りすることには何の興味もない。ソフトはてめえが使いたければてめえで買うのが当然だと思っている俺は、これまで自分のソフトを他人に貸したこともないし、他人からコピーしてもらったこともない。
 しかしウエアーズは別だった。電話回線を通じて、本来ならば金銭授受がなければ手元に届かないはずのソフトウエアが何の不思議もなかったかのように俺のPCの中にやってくる。しかもそのソフトを公開しているホームページの作者たちは、何の見返りも要求せず、見知らぬ他人に気前良く自分の所有するソフトを「無料で」公開しているのだ。これはどうしたことだろうか。
 しかも、ホームページ上にファイルを置いて公開するということはかなりの労力を必要とするものなのだ。
 まずウエアーズをホームページ上で公開しようと思ったら、無料のレンタルサーバーにアカウント(通称「アカ」。「垢」などと書いたりもする)を取得することからはじまる。そこにファイルをアップロードするわけだが、それが違法性のあるファイルであることがサーバー管理者に発覚すると即座に削除されてしまう。そこでまず、ホームページ作者はこの削除の嵐と戦わなければならないのだ。
 例えばファイル名を「Photoshop5j.lzh」などとして公開すれば、即座に削除されてしまうことは間違いない。最近はサーバー上に、これらウエアーズとおぼしきファイルが置かれている場合、自動的に見つけ出して削除したり、ダウンロードできなくしたりする仕掛けがほどこされている場合が少なくない。そこでホームページ作者としては、ファイルをこまぎれに分割し、さらに拡張子を変えたり、画像ファイルの中にプログラムを埋め込んで(インプラントという)偽装するなど、さまざまに加工する手間が加わっているのである。
 さらに最近のアプリケーションはサイズが大きいため、1つのアカウントだけで借りられるレンタルサーバーの容量(通常5〜10メガ程度)では足りず、複数のアカウントにまたがって公開される。その一部のアカウントが削除されてしまうと、削除された部分を別のアカウントを取得して再度公開する「補完」という作業が必要になってくるのだ。最近はいくらファイルを加工して偽装しても、持って1〜2週間。早ければ公開後数時間で削除されてしまうこともある。このようにウエアーズサイトの作成と運営には大変な労力と精神力が必要なのである。
 彼らはいったいなぜ、そうまでして赤の他人にファイルを提供し続けるのか。それはやはり俺が初めてウエアーズをダウンロードしたときに感じたのと同じように、彼らも 「ソフトウエアの金銭的価値を無価値化してしまうネットワークの魔力」に魅せられてしまったからではないだろうか。意識的か無意識的かは別にして。
 一部のワレザーの中には「市販ソフトウエアは高すぎる。不当に利益を貪っている。だから俺はそれに抗議する意味をこめてウエアーズをやっているのだ」と言う者もいる。だがこれはあまりにも幼稚な詭弁に過ぎない。強盗が「金持ちの家にしか押し入らない」からと言って許される法治国家は存在しないのである。
 しかし「違法コピーは全て犯罪である」という「正論」からすれば、理由がどうであれどちらも犯罪であることに変わりはない。いずれこうしたウエアーズサイトも駆逐されていく運命にあるのだろう。だが現状では、そんな法律的な議論をも軽く蹴散らして、見知らぬ他人同士が、本来ならば数万円から数十万円もする商品を無償でやりとりするというアナーキーな流通行為が行われているのだ。この奇妙さに完全に魅せられた俺は、いまもこの奇妙なコミュニティの中を徘徊し続けている。

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