TOY CLUB目次へ

GUNS&ミリタリーおもちゃ箱

第2回:増殖するG.I.ジョー

ショーウィンドウの中に輝くアイテムたち

潜水兵セット(当時1200円)。水に入れチューブを吹くと頭部から気泡が出る。(カタログより複写)
先月に引き続き、今回はG.I.ジョーのアイテムについて。1964年に米ハスブロ社から発売された身長30センチのアクションフィギュアG.I.ジョー。そのアイテムと人形のバリエーションはそれこそ星の数ほどあった。当然の事ながらアチラには(コチラにもか)専門のコレクターがたくさんいる。
テントは畳んで背嚢に。下部には寝袋も付けられる。が、子供の手では10分はかかる。
無線電話セット(当時300円)。迷彩色の海兵隊バージョンもあった。地図ケースがイカス。
実はぼくは、情けないことに、こうして記事を書いているにもかかわらず、実際に入手できなかったアイテムの方がはるかに多い。「オレの方がもっとコレクションしているぜ」という読者の方も多いに違いない。うう…。
まったく言いわけをするつもりなんであるが、前回も書いたように、G.I.ジョーといえば高級玩具である。町のオモチャ屋にはほとんど売ってない。しかも、キャプションで値段をいくつか紹介したが、当時はこの価格が恐ろしく高いものだったのだ。小学校5〜6年生でひと月の小遣いはおおよそ600円位。節約したとしても小遣いで買えるのはせいぜいポンチョ(250円)やMP上着セット(300円)どまりだった。
陸軍戦闘服の軽装バージョン。帽子はブカブカですぐ落ちる。認識票を裏返しにして撮影してしまった。失礼。
つまりG.I.ジョーというのは、誕生日やクリスマスなど子供のハレの日に親や、子供好きの親戚のおばさんにねだってねだって、ようやく買ってもらうものだったのだ。
ぼくの生まれ育った東京の下町で言えば、上野松坂屋デパートの品揃えがナンバーワンだった。浅草の松屋デパートも品数では負けていなかったが、松坂屋はそのディスプレイにおいて完全に他を圧倒していたのだ。
おもちゃ売り場の一角が完全なG.I.ジョーコーナーになっていて、エレベーターを降りるとすぐに「G.I.ジョー」と描かれた手作り看板が目に飛び込んでくる。近づくと、今度は子供の目の高さに合わせたショーケースの中に、ジープやテント、救命ボートなどキラ星のごとき高価なアイテムたちが、ジオラマ風にディスプレイされていたのである。
ショーケースの中は憧れの世界。いつかは買うぞと心に誓ったそれら高価なアイテムたちを、ぼくらG.I.ジョー仲間(なんだソレ)は敬意をこめてデカ物≠ニ呼んでいた。

触れることさえままならぬ"デカ物"たち

サンダーバードの秘密基地しかり、レーシングカーのダブル8の字コースしかり、コレクションにはいつも、ついに手に入れられなかった幻のアイテムが存在する。G.I.ジョーにおいてはジープ≠ェそれだった。
デカ物の極み、ジープ。日本での価格は不明だが隅に$15と書かれている。1ドル=360円時代の15ドルだから、単純に換算しても5400円以上だろう。同じく憧れだったラジコンカーが、当時5000円位であった。(カタログより複写)
段ボールの上にプラ製のペグを刺して設営するテント。説明書には段ボールは35cm×95cmのサイズが必要とある。M1919機関銃、スコップ、擬装用ネット付きで当時800円。
G.I.ジョーの縮尺からするとおよそ6分の1スケールだろうか。その圧倒的な重量感はガラスケースの向こうにあっても手に取るように感じられた。ディティールの作り込みなどは大味もいいところなのだが、むしろそれがタフさを象徴していて、かえって魅力だったのだ。テレビではちょうど、このウイリスジープを自在に駆るトロイ軍曹たちならず者部隊が、ドイツ軍を蹴散らす戦争アクション『砂漠鬼部隊』(後に『ラット・パトロール』と改題)が放送されていた。これはもう本当に夢にまで見て不思議はないだろう。
一方、潜水兵セットは持っていた友達がいた。が、水の中には入れなかった。いや入れられなかったのだ。G.I.ジョーの手足は胴体内部で針金のフックとゴムヒモで繋げられている。もし水没したらフックは錆び、ゴムは劣化して切れてしまうだろう。ウエットスーツとアクアラングのフロッグマンセットもあったが、これを水に入れるなど言語道断であった。

バリエーションは混沌の彼方へ

小物で面白いところでは、松葉杖と包帯、聴診器、点滴ビンなどが入った医療セット。これには骨折した時の添え木まで入っている。これらは後に、幻といわれたG.I.ジョーの看護婦=G.I.ナース人形に付属されたアイテムでもある。
海兵隊上陸セットというのは、火炎放射器と迷彩模様のテント、それに食器という、わかるようなわからないような組み合せだ。火炎放射器で何を焼いて食べるのだろう。怖い考えになってきた…。
ともかく、こうして大物から小物までたいていのアイテムが出揃ってしまった頃から、G.I.ジョーは、世界の兵隊シリーズ、アドベンチャーチームシリーズという新たなバリエーションを増やしていく。アドベンチャーチームは軍隊に限らず、沿岸警備隊、警察官、宇宙飛行士などのコスチュームがラインナップされていた。
携帯ボックス。友人の家にコレがあるとうらやましくて帰りたくなった。(カタログより)
この路線変更の真意は、本国アメリカにおける反戦運動の高まりが影響していたというが、そんなことにはおかまいなく、松坂屋のショーウィンドウはさらに賑やかさを増し、さらに夢の世界を描き出していた…と思う。
と、語尾がはっきりしないのは、実はその頃ぼくらは、果てしなく増殖を続けるG.I.ジョーのアイテム攻勢に、すでに息切れしはじめていたからだ。
ぼくらは再び安価な駄菓子屋玩具に戻りつつあった。洋風もいいけど、やっぱ、日本人は畳の家だよねー、なのであった。ということで、次回は駄菓子屋玩具の雄、ブリキ鉄砲についてお話しをしよう。

(「コンバットコミック」'94年3月号掲載)

(c)HASBRO

第1回へ戻る|TOY CLUB目次へ|第3回を読む