Top TOYCLUB レトロおもちゃ大図鑑(定番おもちゃ) Back

には避けては通れぬがあったのだ!?
誰もが手にした懐かしの定番アイテム集

 ぼくが小学生の頃、筆箱には必ずボンナイフ≠ェ入っていた。プラスチックやブリキのハンドルにハトメでカミソリの刃を留めただけの安っぽい刃物だ。
 ところがある日、友達が学校に、兄貴からもらったという小刀を持ってきた。角材を削ってもビクともしなそうな分厚い刃。それを支えるハンドル部分も頑丈な鉄板でできている。
 兄のいないぼくは、すぐさま近所のお兄さんを尋ねて、その素晴らしい刃物≠フ形状を必死に言葉で説明し、それが文具店に売っていることを聞き出した。
 その刃物が肥後の守≠ニいう名称で、1950年代の少年の必携アイテムだったこともそのお兄さんから聞いた。もちろん友達も皆同じことをしたから、ぼくの周りでは一時的にこれを持ち歩くことが流行した。文具店のおばちゃんも、急にこんな古い物が売れてさぞビックリしたに違いない。
 まだ子供社会が縦割りだった時代には、こうした定番グッズは、その使い方と共に前の世代から次の世代へと受け継がれていった。
 メンコ集めが流行った時も、ぼくが友達とアパートの階段に腰かけて『アトム』や『鉄人』メンコを見せ合っていた時に、近所の中学生のお兄さんが学校から帰ってきて、押し入れにしまいこんであった昔のメンコを山ほどくれたことがある。
 お兄さんがくれたメンコには、『市川雷蔵』とか『大友柳太郎』といったちょっと昔の役者の絵や写真が入っていたけれど、それがかえってレアで友達に自慢できた。
 しかし間もなく教育ママゴンが出現し上を狙う℃q供たちがそろばん塾や学習塾へ通い始めると、放課後に遊べない子供が増えてきた。さらにテレビの普及は子供を早く家へ帰らせる効果てきめんとなった。
 そしてぼくがお兄さんからもらった昔のメンコも、次の世代に受け継がれるチャンスを失い、おもちゃ箱の片隅でひっそりと赤茶けていった。

別冊宝島360「レトロおもちゃ大図鑑」(宝島社)1998年2月9日号掲載
(C)Tetsuya Kurosawa.

[Top] | [Back]