『若き日のリンカン』 (1939年アメリカ作品)


原題/YOUNG MR. LINCOLN
監督/ジョン・フォード
主演/ヘンリー・フォンダ、アリス・ブラディ 白黒 101分
 第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンの若き日の弁護士時代を描いた物語。ぼくはアメリカ史そのものに興味があるわけじゃないから、正直いってさほど期待してたわけじゃなかったんだけど、さすがのジョン・フォード作品。堂々とした骨太の人間ドラマになっていて、途中からもう目が離せない。「食わず嫌いはダメだぞ」とたしなめられた気持ちでありました。
 ヘンリー・フォンダ演じるリンカーンは髪形のせいもあるけど、写真や銅像で見るリンカーンにそっくり。そして決して無敵のヒーローや正義漢にあふれた伝説の男として描かず、視点をずっと低くしてごく普通の人間として描いているところにも好感が持てる。
 ドラマのメインは、リンカーンが初めて弁護士を務める裁判で、殺人罪で起訴されたふたりの青年をどう弁護するかという法廷シーンである。リンカーンはこの厳粛な場で、検察側の証人を下品なジョークでからかって法廷内を爆笑させたりと、型破りこの上ない弁護を展開する。この、ひとつ間違えば陳腐にしかならないシーンも、フォードの自信に満ちた演出のために説得力を持って見せられてしまうから不思議だ。このあたりはフォードの映画を愛してやまなかった黒澤明監督の作品に受け継がれていく独特のスタイリズムとでもいうべきものである。
 リンカーンの若き日のエピソードに本当にこんなドラマチックな裁判があったのかどうかは分からない。でもこれはハリウッド映画なんだから、伝記でもひとつの物語フィクションとして受け止めた方がいいでしょうね。

(1999/06/05)


※ブラウザの[戻る]または[Back]ボタンで戻ってください。