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『その日のまえに』 (2008年 「その日のまえに」製作委員会 作品)


©2008「その日のまえに」製作委員会
監督/大林宣彦
原作/重松清
脚本/市川森一
撮影台本/大林宣彦、南柱根
出演/南原清隆、永作博美、筧利夫、今井雅之、風間杜夫
カラー ビスタビジョンサイズ 139分
 久々に試写会のお誘いをいただき、角川映画試写室で、11月1日公開の映画『その日のまえに』の試写を見る。
 これは、大林宣彦監督が、重松清の同題の小説を映画化したもの。主演は南原清隆と永作博美。原作は「泣ける!」と評判だったというが、あいにくぼくは未読です。果たして映画の方はどうでしょう。
 お話は、病気で余命1年を宣告された妻・とし子(永作)と、その夫でイラストレーターの健大(南原)。ふたりがその1年をどうやって生き、その運命を受け入れたのかが綴られている。
 これだけを書いて、しかも「泣ける」となると、難病ものにありがちな展開が予想されてしまうが、このお話はそれだけに終わらない。
 ふたりは、心配する主治医の反対を押し切って、さびれた小さな海辺の町へ旅をする。そこは、かつてふたりが貧しいながらも幸福な新婚時代を過ごした町だった。
 そしてここからが大林映画の真骨頂である。ふたりが歩く実際の風景と、かつてたくさんの人で賑わっていた昔の町の風景が、まるで自然なことのように同時に(!)描かれているのだ。それによって、そこに暮らす、あるいは昔暮らしていた人々の、いくつもの人生が交錯し、くっきりと浮かび上がってくるのである。
 これを単なる回想シーンとせずに、現実とミックスしたために、懐かしさと寂しさの入り混じった不思議な浮遊感を持っている。この感覚......これは、そう、1988年公開の大林監督の映画『異人たちとの夏』を観た時の感覚に近いな! と思ったら、どっちも市川森一の脚本でありました。市川脚本のセリフのファンタジーと大林演出の映像のファンタジー、どちらも最高です!!
 余談だけど、この海辺のシーンで、「かもめハウス」という海の家の看板の「ハウス」という文字にだぶって「キャーッ!!」という叫び声が重なるカットがあるが、これは大林監督の劇場映画第1作『HOUSE ハウス』(1977年)への目くばせで、当時からの大林映画ファンとしては思わずニヤリとしてしまうワンカットでした。一瞬なのでお見逃しなく。
 映画は、前述したように、決して観客に涙を強要することなく、じんわりと心にしみてくる。ふたりの愛と覚悟がすがすがしい。また、物語の中盤からライトモティーフ的に登場し、宮沢賢治の詩を歌にして歌うセロ弾きの女性も、作品のテーマと合っていてじわ〜んと心にしみてくる。
 悲しいお話なのに、観終えた後に、何ともいえないすがすがしい気持ちになる素敵な映画です。
 公開は、11月1日より、角川シネマ新宿ほか。機会がありましたら、皆さんもぜひ見てくださいね!!

(2008/10/08)

 追記:
 この試写を見た直後の10月11日、大林映画の常連で、この映画にも出演されている、俳優の峰岸徹が、肺がんのため亡くなった。この映画への出演は、峰岸氏が自宅で療養している中、大林監督がカメラを持参して、自宅の庭で撮影されたそうで、この作品が峰岸氏の遺作となった。ご冥福をお祈りいたします。

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