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『汚れた英雄』 (1982年 東映作品)

製作・監督/角川春樹
プロデューサー/橋本新一、和田康作
原作/大藪春彦
脚本/丸山昇一
撮影/仙元誠三
音楽/小田裕一郎
音楽プロデューサー/高桑忠男
美術/今村力
出演/草刈正雄、レベッカ・ホールデン、木の実ナナ、浅野温子、勝野洋
カラー ビスタビジョンサイズ 112分
 ファクトリーライダーへの誘いを断り、プライベーターとしてレースに挑戦し続けるライダー・北野晶夫(草刈)。彼は、彼を慕う女たちを利用しつつ、自らの野望に向かって孤独に走り続ける──。
 公開当時、劇場・テレビ放映・レンタルビデオと3回も見ていたにもかかわらず、ディティールはほとんど忘れていた。
 大藪春彦の原作は、孤独で無一文の青年が、その美貌と肉体だけを武器に、金持ちの女性たちの欲望を踏み台として成り上がっていくという、男の野望を描く物語であり、主人公・北野晶夫はまさに題名通り“汚れた英雄”なわけだ。
 しかしこの映画では、その長編小説の中から、レースシーンを中心としたごく一部分だけを切り取って構成されたもので、ある意味全く別の作品になっている。
 丸山昇一の脚本は、レースを軸にしながらも、晶夫の回想や独白を織り込んで、晶夫の過去と孤独を描こうとそれなりにがんばってはいるのだが、いかんせん演出の薄っぺらさがその足を引っ張ってしまっている。
 角川春樹の演出は、やたらスタイリッシュなシーンにこだわり、意味のないかっこよさを見せつけるシーンが連発されるのは、こっちが気恥ずかしくなるほどだ。
 そう言えば、その後こんな映像をどっかで見たことがある、と思ったらそれは北野武監督の映画だった。かっこよさげなシーンを思わせぶりに見せただけで、そのシーンはそのまま終わってしまい、別のシーンには全くつながらない。
 まあそれでも、25年後の今こうして見ると、レースシーンだけは貴重だ。
 レースシーンの撮影で北野晶夫のライディングの吹き替えをやっているのは、当時、全日本ロードレースで活躍していた平忠彦だった。その平の全盛期の走りが見られるのだ。
 時はあたかも空前の2輪ロードレースブームのころであり、マンガ『バリバリ伝説』なども流行していた時代である。バイクメーカーは次々と高性能なロードモデルの新型バイクを発表していた。
 そしてぼくも何を思ったか、ちょうどこのころ、25歳を過ぎてから中型2輪の免許を取得し、弟が乗っていたホンダのCBX400Fを譲り受け、ライダーとなったばかりだった。
 そんなこともあって、映画的にどうのというよりも、ぼくはこの映画のレースシーンが大好きだったのだ。
 今回久々に再見して気づいたのは、ライディングポーズが当時と今ではかなり違うということだ。コーナリング時にお尻をシートから内側に落として走るハングオンスタイルが、今はお尻だけじゃなくて上体もさらに深く内側に傾けるようになっている。
 元々ハングオンスタイルというのは、タイヤの性能が向上しバイクのフレーム剛性が上がったことから可能になったと言うから、現在はこの映画の当時よりさらにタイヤ性能とフレーム剛性が上がったということなんでしょうね。
 そのハングオンスタイルでコーナーを駆け抜ける当時のトップライダーたちの姿をスローモーションでとらえた仙元誠三のカメラワークは抜群にセクシーだ。
 そう、この映画の主役は草刈正雄でも角川春樹でもなくオートバイだったのである!
 ということで、伊武 雅刀のDJみたいなレース実況がインチキ臭いとか、スプリントレースで一度転倒してあそこまで順位を回復できるものなのかとか、気になる部分は多々あるけど、やっぱりこの作品は、ぼくにとっていつまでも忘れられない大好きな映画なのだった。

(2006/10/16)

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