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『ALWAYS 三丁目の夕日』 (2005年 「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会作品)


©2005「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会
監督・脚本・VFX/山崎 貴
エグゼクティブプロデューサー/阿部秀司、奥田誠治
原作/西岸良平
脚本/山崎 貴、古沢良太
撮影/柴崎幸三
音楽/佐藤直紀
美術/上条安里
出演/吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希、マギー、温水洋一
カラー シネマスコープサイズ 141分
 西岸良平が10年以上前から「ビッグコミックオリジナル」に連載しているマンガ『三丁目の夕日』の初めての映画化だ。
 原作マンガは昭和30年代の東京の下町にある架空の町・夕日町三丁目で暮らす人々の日々の物語を1話完結形式で描いた作品で、一応、鈴木一平という小学生の主人公はいるが、それ以外の町の人々が主役となるエピソードも多い。
 果たしてこれをどう映画化するのか、製作発表があったときから非常に期待していた。
 そして完成した映画は……膨大な原作の中からいくつかのエピソードをピックアップして、それを巧みに組み合わせ、アレンジして実にまとまりのある素敵な映画となっていた。
 夕日町三丁目を東京タワーの見える場所と設定し、その東京タワーがまさに建築中だった昭和33年の1年間を舞台にして時代性を出した演出も成功している。
 ただ、見る前に、若干の心配もなかったわけではない。実は予告編の、吉岡秀隆演じる茶川竜之介が絶叫するシーンを見て、感情過多でそれを押し付けるような映画だったらどうしよう、と密かに心配していたのだ。また、監督を始め、映画スタッフのほとんどがぼくよりはるかに若く、昭和30年代よりずっと後に生まれた世代だったことも気になっていた(山崎監督は1964年生まれ)。その若い世代にあの時代の空気と言うものが果たして描けるのだろうか、と。
 だがそれはまったくの杞憂だった。
 ドラマには10人を越える人物がからんでくるのだが、そのひとりひとり全てが個性的で血が通っており、魅力的に描かれている。そしてそのひとりひとりを絶妙なバランスでからめていくシナリオの構成が憎いほどに巧みなのである。もう物語の半分を見たところでぼくはもう完全に脱帽した。
 この作品で描かれているテーマは、登場人物ひとりひとりにとっての大切なものとは何なのか、ということ。それがひとつずつていねいに描かれているから、そのたびに見ているぼくの目からは涙があふれ、結局、映画が終わるまでに5回は泣かされてしまった。
 今回は役者ひとりひとりが良かったので、特に誰という言い方はしにくいのだが、あえて言うならば、薬師丸ひろ子演じる鈴木オートのおかみさんと、小雪演じる元ストリッパーで飲み屋の雇われおかみの役が、「確かに昔はこういう女の人、いたなぁ」という感じを思い起こさせてくれる昭和の女性を自然に演じていて、これが作品全体の深みを増していたように思う。
 CGやミニチュアとの合成も決してあざとくなく、壮大な俯瞰で見下ろす大通りの風景から、街並みの向うに見える東京タワーまで、懐かしい風景を存分に楽しむことが出来た。セットの造りこみにもこだわりが見え、背景のほんの片隅にしか見えないお店の商品など、1つ1つ手にとって見たいものだった。
 逆にご近所中が集まってテレビを見るシーンでは、小さなブラウン管が彼らのイメージの中で壁一杯にひろがるというシーンなどはまさに現代的な表現として見事な効果をあげていた。若い世代の描いた昭和に完敗です。

(2005/11/06)


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