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『けんかえれじい』 (1966年 日活作品)

監督/鈴木清順
原作/鈴木隆
脚色/新藤兼人
企画/大塚和
撮影/萩原憲治
音楽/山本丈晴
美術/ 木村威夫
出演/高橋英樹、浅野順子、川津祐介、片岡光雄、恩田清二郎
モノクロ シネマスコープサイズ 88分
 時代は昭和初期、備前岡山でケンカに明け暮れる旧制中学の硬派男南部麒六(高橋)の青春を描いた鈴木隆の同題の小説を映画化した、鈴木清順監督日活時代後期の代表作。
 ぼくは学生時代に清順作品を集中的に追いかけてた時期があって、そのころに初めて見て以来、映画館、テレビ、ビデオなどで何度も見た、大好きな映画の1本である。
 清順映画の中でも特にこの作品は、全編にみなぎるリリシズムが美しい傑作だ。
 マンガのようにカリカチュアライズされた役者たちの演技が、全体をコミカルなトーンにまとめ上げている中で、時おり挿入されるハッとするほどの詩的な演出は鳥肌が立つほど素晴らしい。
 延々と続く夜桜の下を麒六と麒六の憧れのマドンナ道子(浅野)が並んで歩く幻想的なシーンや、その後の竹刀で桜の幹をコーンと叩くと桜がハラハラと散るシーン。ラスト近く、障子を挟んで麒六と道子の指が触れ合うシーンなど、名場面を挙げればキリがない。
 主演の高橋英樹は、中学生にしては少々トウが立っているが、粗野で朴訥、女に対してはいたって純情という素朴な青年を好演していて、当時の定番の役だった着流しのヤクザ者とはまた違う魅力を見せてくれている。
 また登場人物で言えば、麒六にケンカ戦法を教える怪しげで生臭い先輩スッポン(川津)もインチキ臭くていい味を出している。
 ところで今回久々に再見して気づいたのは、後の大林宣彦監督の演出と非常によく似たテイストがあるということだ。
 大林監督が実際に清順の演出を意識していたかどうかは分からないけれど、この作品をを見てると、例えば大林監督の『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるおしきひとびとの群』(1988)などが自然と思い出されてくる。
 不思議なのは、清順映画や大林映画を最も多く見ていた70年代後半から80年代初めごろには、そんなこと、ほとんど感じたことはなかったということだ。いったいなぜなんだろうか。

(2005/04/06)


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