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『女番長 野良猫ロック』 (1970年 日活作品)

監督/長谷部安春
製作/笹井英男、飯島亘
脚本/永原秀一
撮影/上田宗男
音楽/鈴木邦彦
美術/斎藤嘉男
出演/和田アキ子、梶芽衣子、和田浩治、范文雀、久万里由香
カラー シネマスコープサイズ 81分
 東京・新宿の裏町。そこでは女番長メイ(梶)率いる不良少女グループと、別の不良グループが抗争を繰り広げていた。
 ある土曜日の午後、750(ナナハン)に乗って新宿へやってきた流れ者の女アコ(和田)が、メイたちを助けたところから物語は始まる。
 1965年に新宿の淀橋浄水場が東村山に移転し、その跡地が34万平方メートルという広大な更地になった。それから5年後の'70年。間もなくここで高層ビルの建築ラッシュが始まる、その直前の新宿を舞台にして全5作品が作られたシリーズの第1作である。
 ほとんどのシーンが新宿でロケされたものであり、都会の真ん中に真空地帯のように広がる広大な荒れ地と建築現場。そのど真ん中を道路だけが一直線に伸びていているという、当時の懐かしくも殺伐とした新宿駅西口周辺の風景が物語にマッチして独特の雰囲気をかもし出している。
 彼らの背後に、折に触れて、建設途中の新宿の高層ビル第1号・京王プラザホテル('71年完成、47階建て地上170メートル)が映し出されるのも、次第に圧迫されつつある若者たちの自由を象徴するものとして見事なモンタージュ効果をあげている。
 この当時の日活映画は、興行的には不振が続き、やがてロマンポルノ路線へと方向転換を余儀なくされるわけだけど、実はその前後のほんの一時期、こうした不良少年少女たちの刹那的な青春を描いた傑作が何本も作られているのだ。その中のひとつがこの野良猫ロックシリーズなのである。
 ぼくは残念ながらこの作品は公開当時に見ることはできなかったが、大学時代に池袋・文芸地下のオールナイト5本立てで全シリーズを一気に見て体が震えるほど興奮したのを覚えている。
 この映画の何が素晴らしいって、不良たちの無軌道ぶりに負けず劣らず映画そのものがアナーキーなことである。
 右の画像は、ナナハンに乗ったアキが、対抗する不良グループ黒シャツ隊のリーダー勝也(藤竜也)の駆るバギーと、激しいカーチェイスを繰り広げるシーンの1コマだ。このバギーが走っている場所は何と地下街(サブナードか)なのである。どっから入ったかと言うと、ナナハンもバギーも歩道から地下へ通じる階段をドドドドと走り下りてきたのだ。
 他にも新宿中央公園から西口地下のロータリーへと向かう道路の車道と歩道(今は動く歩道ができてしまった場所)の間の支柱を縫ってジグザグ走行したり、歩道橋を駆け上がったり、もうムチャクチャやり放題なのだ。
 石原都知事の時代ならいざ知らず、当時、このシーンの撮影許可が下りたとは絶対思えないから間違いなくゲリラ撮影だろう。これがいいか悪いかといえばやっぱり悪いんだけど(笑)、当時はこうした低予算のプログラムピクチャーにも「何でもやってやれ!」 という、たぎるようなエネルギーが満ちていた、まさにその証拠のような映像だと思う。
 とにかく、この映画は物語のあらすじを紹介してもあまり意味がない。起承転結のあるストーリーはあるにはあるんだけど、実際にはその物語の行間を埋めるような余白的なシーンこそがこの映画の本質だとぼくは思うのだ。
 いつも男っぽくて女からも惚れられているアキが、夜のショウウインドウに飾られたドレスを見て少女のように目を輝かせるシーンとか、メイが恋人の道男(和田)と言い争うシーンの、アップとロングの映像を1カットに合成した不思議なコラージュとか、本筋には関係ないところであまりにもケレン味がありすぎて、ぼくはそこに感動してしまうのだ。
 残る4本も全て傑作なので、機会を見てまた紹介したいと思います。

(2005/03/31)

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