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『鐘の鳴る丘 第一篇 隆太の巻』 (1948年 松竹大船)

監督/佐々木啓祐
原作/菊田一夫
製作/山口松三郎、佐藤秀典
脚本/斎藤良輔
撮影/森田俊保
音楽/古関裕而
出演/佐田啓二、高杉妙子、井上正夫、劇団東童
モノクロ スタンダードサイズ 82分
 敗戦直後の東京。大陸から復員してきたひとりの青年(佐田)が新橋駅に降り立った。青年は、施設から脱走し東京で浮浪児になっていると思われる10歳の弟を探しに来たのだ。青年はそこで弟と同い年の浮浪児の少年・隆太と知り合う。隆太ら浮浪児と接しているうちに、青年にはひとつの野望が芽生える。それは生きる望みを失い、盗みやケンカに明け暮れる浮浪児たちを故郷の信州へ連れていき、そこにある両親が残してくれた丘の上の土地に、彼らが幸福に暮らせる家を建てようという夢だった。だが、地元の子供たちに悪影響があるとして、地元の伯父たちは強硬に反対するのだった。
 有名なラジオドラマの映画化で、ぼくは20数年前の高校生の頃に、テレビ東京(当時は東京12チャンネル)の日本映画名作劇場で見た記憶がある。
 とにかく、今見ると、圧倒的な迫力があるのは、実際に現場でロケーションをしている終戦直後の新橋や銀座の風景のリアリティである。どこへカメラを向けても焼けビルや廃墟が映り込んでいる。そして、そこに描かれる浮浪児たちの生活の惨めさ。
 俳優として演技している少年たちのそれは確かに児童劇団の演技だし、彼らの育ちの良さが否応なく出てしまってはいるんだけど、それでもそれを凌ぐカメラに切り取られた時代の風景のリアリティはもの凄く、ずっと後に作られた映画で見るイミテーション然とした闇市や焼け跡の風景とは似ても似つかない迫力をかもし出している。
 ストーリーはよく知られているので今さら詳述する必要はないと思うが、今見ると、とにかく浮浪児の少年・隆太の、どこへ行っても邪魔者扱いされる疎外感、肉親の居ない孤独感、そして大人への反発などが繰り返し描かれ、それが痛いほどに伝わってくる。
 しかしその一方では、逆に佐田啓二演じる青年の気持ちの掘り下げがいまひとつなのが気になった。青年と隆太の出会いが多分に偶然でしかなかった事や、自分の弟を探すという目的を忘れ(忘れたわけではないが)、浮浪児たちの家を作るという夢を思いつくまでのプロセスの唐突さなど、かなり曖昧なままに展開していってしまう部分が多いのだ。
 もっとも、この映画は三部作であり、1948年11月公開のこの第一篇の後、『鐘の鳴る丘 第二篇 修吉の巻』(1949年1月公開)、『鐘の鳴る丘 第三篇 クロの巻』(1949年11月公開)と続いている。そちらも機会があればぜひまた柴又名画座で上映してレポートしたいと思います。

(2002/09/06)


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