Top 柴又名画座 No.186 Back
『獄門島』 (1977年 東宝作品)

製作/田中収
製作・監督/市川崑
原作/横溝正史
脚本/久里子亭
撮影/長谷川清
音楽/田辺信一
出演/石坂浩二、大原麗子、佐分利信、司葉子、草笛光子、太地喜和子
カラー スタンダードサイズ 141分
 終戦直後の混乱の時代、友人からの依頼で瀬戸内海の孤島・獄門島を訪れた私立探偵・金田一耕助の眼前で、奇怪な連続殺人事件が起こる。金田一は、やがて事件が、松尾芭蕉と弟子の其角が詠んだ俳句と関連のあることを突き止める。
 横溝正史が1947(昭和22)年に発表した同題の小説を、市川崑が『悪魔の手毬唄』(1977年4月公開)に続いて東宝で演出、同年8月に公開された作品だ。
 1970年代半ば、角川書店が火をつけた時ならぬ横正ブームは、横溝正史の絶版小説を文庫で次々と復活させ、映画・テレビで金田一耕助シリーズが続々と映像化、各社競作合戦となった。
 中でも市川崑監督、石坂浩二主演による東宝のシリーズは完成度が高く、当時からミステリーファンの間でも評価は高かった。
 が、ヘソ曲がりなぼくは、ブームとなると拒否反応を起こしてしまい、見る気が失せてしまうのだ。ということで、実はこの映画も、名画座で併映作品を見たついでに途中から見たのと、後でテレビで放映された時に見ただけで、マトモに見たのは今回が初めてなのである。
 公開当時は、時代性や原作のおどろおどろしさを強調する市川演出のあざとさが目についてしまい、「やっぱり流行に乗って作られた映画はだめだな」などと斬って捨てていたぼくだが、今回、20年以上の年月を経て素直な気持ちで見ると、実によくできた映画だったことが分かる。
 原作のおどろおどろしさや、ケレン味を巧みに映像化する手腕は、映像派の市川崑監督の得意とするところで、見せ場もたっぷりと作ってある。そしてわずか2時間強の映画にしては異常なほどに多い登場人物と、その複雑な人間関係をきちんと整理して分かりやすく見せた構成の妙も鮮やかである(それでもかなり複雑だけど……)。
 さらには佐分利信の一癖も二癖もありそうな和尚や、まだ若々しい大原麗子の華麗な魅力など、ひとりひとりの役者を見る楽しみもある。
 ただ、肝心の推理の謎解きの部分は、小説ではそれなりに納得させられてしまうが、映像として見ると、多少無理が出てきてしまうのは仕方のないことか。
 公開当時、あまり好い印象を持っていなかった映画を、最近になってこうやって見返すと意外にも傑作だったりすることがよくある。こうなってくると、昔見た駄作や失敗作ももう一度見返してみたくなってくる。もしかしたらぼくが肝心な部分を見落して傑作であることを理解できなかった作品はかなり多いのかも知れない。うーん、あまり考えるのはよそう……そうすると人生をもう一度やり直さなければならないから……。
 因みに脚本としてクレジットされている久里子亭は、資料によれば、市川崑と日高真也がアガサ・クリスティをもじってつけたペンネームだという。
 それから、市川崑はこの映画の後、同じ石坂金田一の主演で『女王蜂』(1978)と『病院坂の首縊りの家』(1979)という二本の横正作品を映画化。それからさらに10数年後の1996年に豊川悦司の金田一耕助で『八つ墓村』を映画化している。一応、参考までにメモとして書き留めておきます。

(2002/01/02)


[Top] | [Back]