Top 柴又名画座 No.177 Back
『竜二』 (1983年 PRODUCTION RYUJI作品)

企画/大石忠敏
監督/川島透
原作/金子正次
脚本/鈴木明夫
撮影/川越道彦
美術/小池直実
出演/金子正次、永島暎子、北公次、桜金造
カラー ビスタビジョンサイズ 92分
※柴又名画座で映像ソースにしたものはスタンダードサイズ
 新宿ではちょっと名の知れたやくざ者の竜二(金子)が、妻と娘のために、やくざから足を洗ってカタギになる決心をした。そして竜二は、そこで初めて得た人間的な幸福にしばし浸るのだが、それも長くは続かなかった……。
 実際にやくざの世界に身を置いていたという金子正次が原作・脚本(鈴木明夫は金子のペンネーム)・主演をし、新人の川島透が演出した意欲的な作品だ。
 しかしこの映画が完成し、公開される前に金子はガンで亡くなった。撮影中も、病をおしての執念の演技だったという。
 映像的には低予算で、あまり注目すべきところはないが、とにかくやくざという人間を見せる演技や演出のリアリティが半端じゃない。
 例えば、桜金造演じる竜二の子分が、町を歩いていて何かのチラシを手渡されるシーンがある。そこで、桜はチラシを一旦受け取ってから、チラと見てすぐに興味なさそうに、自分の頭越しに後ろへポイと投げ捨てるのだ。
 このシーンにぼくは、「おおっ!」とうなった。特にストーリーには関係ないシーンなのだが、これがまさにチンピラやくざの行動そのものだと思ったからだ。
 これが一般の人だと、興味がなければ最初からチラシは受け取らない。あるいは受け取ってしまうタイプの人の場合は、一応しばらくそれを持っていて、あとでそっと捨てるものだ。キチンと屑かごに入れはしなくても、カタギの人で頭越しにポイと投げ捨てる人はいない。
 しかしチンピラやくざの場合はというと、彼らは何にでも興味を示すからチラシは一応受け取るのだ。しかしもともとそんなものに興味があるわけじゃないから、すぐに頭越しにポイと捨てるのである。
 実はこのシーンは予告編にもあったシーンで、本編は今回が初見だが、予告編で何度も見ていたのである。そしてその時からずっと「これは!」と思っていたのだった。
 ストーリーは、カタギになる夢を見てその夢に破れていくやくざの悲哀が、淡々とした描写で描かれていて、非常に好感が持てる。妙にセンチメンタル過剰にならず、それでいて悲しさが伝わってくる演出は実にいい感覚だ。また、どの役者のキャスティングもぴったりとはまっていて、本当に生きた人間を感じさせる。
 ただぼくは本質的にやくざという人種が好きじゃないんだよね。だから各キャラクターへの思い入れも50%といったところ。特に永島暎子演じる竜二の妻の気持ちは、ぼくにはまったくつかめませんでした。
 ということでこの翌年、金子正次の遺した脚本を川島透が脚色&監督し、柴田恭平主演で『チ・ン・ピ・ラ』(1984年 プルミエインターナショナル・フジテレビジョン)が公開され、こちらも当時話題となったが、ぼくは見ていません。

(2001/09/11)


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