打ち合せが終わって帰宅する途中、駅売店で左のような新聞ポスターを見かけた。
 それぞれのポスターで被曝者の人数がまちまちになっているのが、事態の緊急性を物語っている。

 ところで、この monologue では、普段はあまり社会的なニュースについてコメントするのはなるべく控えている。というのは、最近の芸能人みたいに、ロクに知識もないくせにいっぱしの文化人気取りでコメントして誤報を流してしまったり、無知からくる曲解で読んでくださった方に誤解や偏見を与えてしまってはいけないと思うからだ。
 しかし今回は書かないわけにはいかないぞ。実は去年ぼくが書いた小説『鋼鉄都市アガルタ』のプロローグに、21世紀初頭に起きた大規模な原発事故の描写があったため、その時に原発事故についてはかなり調べた。どの程度の規模の事故で周囲何キロの範囲が立入禁止となるか、何時間後にどこまで放射能汚染が広がるか…などなど。

 今回の事故現場に近い東海村の海岸。ぼくの親戚がひたちなか市に住んでおり、今年2月に法事で行ったときに、案内してもらった。当然その親戚の家も、今回の外出自粛要請エリアに含まれていた。
 その際にぼくが調べた範囲では、過去の原発事故で政府があんなに真摯に対応したケースは一度もなく、今後も、かなり大きな事故が起こったとしても、対応は控え目で後手後手に回るだろうというのが大方の専門書の予想だった。
 ところが今回は予想に反して、政府は「あとから見ればやりすぎだったと言われるくらいの対応をしていきたい」とかコメントして珍しく積極的なのだ。
 ぼくが思うに、この理由は簡単で、今回事故を起こしたのが、原発や東海村の原研ではなく、一民間企業だったからではないか。
 事故の原因が民間企業ならば、政府が事故の責任を問われることはない。だったら大っぴらに民間人を助けても問題ないわけだ。
 しかしこれが仮に原発事故であったならば、国民に重大事故と印象付けることは今後の原発行政にとって大きなマイナスとなる。従ってかなり危険な場合でも「健康に影響なし」として片付けたに違いないのだ。
 でも原因が自分になければ、原子力の安全性に対する信頼を損なわないことだけを考えればいいわけで「いざとなれば政府が守ってくれる」と国民に印象付けておく方が大事ということになる。
 このJ.C.O.という企業の正体については「民間企業」とだけ報道されており、それ以上はどこも発表してないので分からないが政府が責任を問われるほど国に近い企業体ではないのだろう。
 みんなテレビや新聞の報道にだまされてはいけないのだ。

 それと、冒頭の被曝者の数が最初に報道された12人からだんだんと増えているのは、事故処理に当たっている作業員が次々と被曝しているためだ。そこをはっきりと報道しないのも、恐らく原子力の怖さを印象付ける結果になるからに違いない。中には事故の拡大を防ぐために半ば犠牲的に放射能の中へ飛び込んでいる人もかなりいるはずなのに。


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